認知症高齢者の服薬管理が難しい理由と起こりやすいトラブル
認知症による服薬管理の困難と日常的なリスク
認知症の親御さんの服薬管理は、介護者の方々が直面する最も難しい課題の一つです。厚生労働省の調査によれば、在宅介護における服薬ミスは高齢者の救急搬送原因の約15%を占めています。なぜ認知症の方の服薬管理がこれほど難しいのでしょうか。
認知症による記憶障害は、「薬を飲んだかどうか」という短期記憶に大きく影響します。実際、軽度認知障害(MCI)段階でも、服薬の自己管理能力は約40%低下するというデータがあります。「さっき飲んだはずなのに、また飲もうとする」「昨日の分が残っている」といった状況は多くの介護者が経験されていることでしょう。
認知症の服薬管理で起こりやすい5つのトラブル
- 飲み忘れ・重複服用:「もう飲んだか」を忘れて、飲まなかったり二重に服用したりする
- 用法用量の誤り:「食前」「食後」の区別ができなくなる
- 薬の紛失・隠し:「大事なもの」として別の場所にしまい込んでしまう
- 拒薬:「毒を飲まされる」などの妄想から服薬を拒否する
- 誤飲:薬を一度に大量に口に入れて喉に詰まらせる危険性

ある80代の認知症の方の例では、血圧の薬を「飲んだ」と言いながら実は口から出して捨てていたことが発覚し、血圧が急上昇して緊急入院となったケースがありました。また別の事例では、一週間分の薬をカレンダー式の薬箱に入れていたものの、先の日付の分まで一度に服用してしまい、低血糖で倒れるというケースもあります。
このような問題は、認知症の進行度合いによって異なりますが、要介護1〜2の比較的軽度の段階から発生し始めることが多いのが特徴です。服薬管理の問題は、単なる「飲み忘れ」にとどまらず、健康状態の悪化や生命の危険にも直結する重要な問題なのです。
服薬管理の基本テクニック:一包化とお薬カレンダーの活用法
一包化サービスの基本と活用
認知症の方の服薬管理で最も効果的な方法の一つが「一包化」です。一包化とは、1回分の薬をまとめて1つの袋に入れてもらうサービスで、多くの調剤薬局で無料または低価格で提供されています。厚生労働省の調査によると、一包化により服薬アドヒアランスが約40%向上するというデータもあります。
「母が朝・昼・夕と6種類の薬を飲み忘れるようになり困っていました。薬局で一包化してもらったところ、『これを飲めばいい』という単純な指示になり、飲み忘れが激減しました」(65歳・田中さん)

一包化を依頼する際のポイント:
– 処方箋を出している病院が複数ある場合はすべて同じ薬局に持っていく
– 飲む時間帯ごとに色分けしてもらえるか相談する
– 袋に日付と時間帯を大きく印字してもらう
お薬カレンダーの選び方と使い方
一包化した薬をさらに管理しやすくするのが「お薬カレンダー」です。市販品は1,500円〜5,000円程度で、1週間分から1ヶ月分まで様々なタイプがあります。
選ぶ際のチェックポイント:
– 文字サイズ:認知症の方が見やすい大きさか
– 仕切りの深さ:薬が取り出しやすい深さか
– 開閉のしやすさ:手先の不自由な方でも操作できるか
– アラーム機能:音や光で服薬時間を知らせる機能があるか
「父は軽度認知症ですが、1ヶ月分のカレンダー型を導入し、毎週日曜に一緒にセットする習慣をつけました。自分で管理している実感が自信につながり、『これだけは自分でやる』と意欲的になりました」(50歳・鈴木さん)
実際の活用では、お薬カレンダーを生活動線上の目につく場所に置き、テレビの特定番組開始など日常の行動と服薬を紐づけるのが効果的です。また、服薬後にカレンダーの該当枠を裏返したり、チェックマークをつけたりする確認システムを作ることで、「飲んだかどうか分からなくなる」という混乱を防ぐことができます。
認知症の進行度別!効果的な服薬チェック方法と声かけのコツ
軽度認知症:自立支援型の服薬管理
軽度認知症の段階では、本人の自尊心を守りながら服薬習慣を維持することが重要です。厚生労働省の調査によると、適切な支援があれば軽度認知症の方の約70%は服薬管理を継続できるとされています。

この段階では「思い出す」ことが課題なので、視覚的な手がかりを活用しましょう。
- 服薬カレンダー活用法:一週間分の薬を曜日・時間帯ごとに区分けできるカレンダーを目につく場所に設置。飲み忘れチェックが一目でできます。
- アラーム連動法:スマートフォンや専用機器のアラームを服薬時間に合わせて設定。音と視覚で服薬時間を知らせます。
中等度認知症:半介助型の服薬管理
中等度になると自発的な服薬行動が難しくなります。認知症介護研究・研修センターの報告では、この段階では約65%の方が何らかの服薬支援を必要とします。
- 一包化のメリット:薬局での一包化サービスを利用し、1回分ずつ日付・時間を明記。「これを飲むだけ」という単純化が効果的です。
- 効果的な声かけ:「お薬の時間ですよ」ではなく「血圧のお薬を飲みましょう」など、薬の目的を伝えると理解されやすくなります。
重度認知症:全介助型の服薬管理
重度認知症では、ほぼ100%の方が服薬の全介助が必要になります。この段階では介護者の工夫が服薬成功の鍵を握ります。
- チェックシート活用:服薬時間、薬の種類、飲めたかどうかを記録するシートを作成。複数介護者がいる場合も情報共有がスムーズになります。
- 服薬拒否への対応:拒否が強い場合は時間をずらす、好きな飲み物と一緒に提供する、医師に剤形変更(錠剤→液体など)の相談をするなどの工夫が有効です。
実際のケースでは、東京都内の介護施設で一包化とチェックシートを組み合わせた管理方法を導入したところ、服薬ミスが月平均12件から2件に減少したという報告があります。認知症の進行度に合わせた適切な服薬管理方法の選択が、安全な服薬継続の秘訣です。
服薬を習慣化させる工夫:時間・場所・環境づくりの実践例
服薬時間を生活リズムに組み込む
認知症の方の服薬管理で最も効果的な方法の一つが、服薬を日常生活の自然な流れに組み込むことです。厚生労働省の調査によると、認知症高齢者の約65%が服薬の習慣化により服薬忘れが改善したというデータがあります。
朝食後の薬は、「いつも朝ごはんを食べたあとのお茶と一緒に飲む」など、特定の行動と結びつけることで習慣化しやすくなります。私が担当していた83歳の認知症の方は、毎朝の歯磨き後に薬を置く習慣をつけたところ、服薬忘れが月に10回から2回に減少しました。
視覚的な工夫で服薬を促す
認知症の方は視覚的な手がかりが重要です。以下の工夫が特に効果的です:

– 薬を置く場所を目につきやすい位置に固定する
– 服薬カレンダーに大きな文字で日付と時間を記入
– 薬の横に「お薬です」と書いたメモを貼る
– 服薬チェック表を冷蔵庫など必ず見る場所に掲示
あるケアマネージャーの事例では、一包化された薬に「朝ごはん後」「昼ごはん後」などと大きく色分けしたシールを貼り、さらに食卓テーブルに専用の薬置き場(色付きのトレイ)を設置したところ、服薬の自己管理率が40%から85%に向上したと報告されています。
服薬環境の整備
薬を管理する環境づくりも重要です。東京都健康長寿医療センターの研究によれば、服薬場所の環境整備により服薬アドヒアランス(指示通りに服薬する割合)が約30%向上するという結果が出ています。
– 服薬する場所は常に同じ場所に決める
– 薬と水を一緒に用意しておく
– 服薬後にチェックできるペンを近くに置く
– 一包化された薬は1週間分ずつ専用ケースに並べる
服薬管理の工夫は、認知症の進行度合いに合わせて調整することが大切です。軽度の場合は本人の自立を促す方法を、中等度以上の場合は介護者による確実な管理方法を選ぶことで、安全で効果的な服薬習慣を形成できます。
家族の負担を減らす:薬局・ケアマネジャーと連携した服薬管理サポート
専門家との連携による服薬管理の負担軽減
介護者だけで認知症の方の服薬管理を担うのは大きな負担です。実際、全国介護者調査(2022年)によると、服薬管理は介護者の約65%が「最も負担に感じる日常ケア」と回答しています。この負担を軽減するには、地域の医療・介護専門職との連携が鍵となります。
かかりつけ薬局の活用法

薬局では以下のサービスを提供しているケースが多く、積極的に相談することで介護者の負担を大幅に減らせます:
– 一包化サービス:時間帯ごとに薬をまとめてくれるサービスは多くの薬局で無料または低価格で対応しています
– お薬カレンダーの提供:日付と時間帯が明記されたカレンダー型の薬ケースを活用できます
– 服薬指導訪問:自宅への訪問サービスを行う薬局も増えており、環境に合わせた服薬管理の提案を受けられます
– 残薬確認・調整:飲み忘れが多い場合、残薬を持参して調整してもらえます
東京都A区の調査では、薬局の一包化サービス利用者の約78%が「服薬ミスが減少した」と報告しており、効果は明らかです。
ケアマネジャーを中心とした多職種連携
ケアマネジャーは服薬管理の重要性を理解しており、以下の支援を受けられます:
– ケアプランに服薬確認を組み込む(訪問介護や通所サービス利用時に確認)
– 服薬カレンダーのチェック体制を複数のサービス間で構築
– 医師・薬剤師・看護師との連携による処方調整の提案
– 服薬支援機器導入の相談(介護保険の福祉用具として認められない場合も、適切な選定をサポート)
佐々木さん(72歳)のケースでは、ケアマネジャーの調整により、朝の訪問介護時と昼のデイサービス利用時に服薬確認を行う体制を構築。家族の夜間の確認のみで済むようになり、介護負担が約40%軽減されました。
専門家との連携は、単なる業務の委託ではなく、認知症の方の状態や服薬状況を多角的に見守る体制づくりです。これにより、薬の効果や副作用の早期発見にもつながり、より安全で効果的な服薬管理が実現します。

コメント