成年後見制度の全費用と選び方|親族か専門職か、あなたの家庭に最適な後見人の選択基準

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成年後見制度の費用と選択基準

成年後見制度を利用する際に最も気になるのが「いったいいくらかかるのか」という費用の問題です。制度の必要性を感じていても、費用が不明確だと踏み出せないケースも少なくありません。このセクションでは、成年後見制度の費用構造と選択基準について、実例を交えながら解説します。

成年後見制度の基本費用構造

成年後見制度を利用する際には、主に以下の3種類の費用がかかります:

1. 申立費用:裁判所に申立てをする際の費用(約1万〜5万円)
2. 鑑定費用:本人の判断能力を医学的に鑑定する費用(約5万〜10万円)
3. 後見人等への報酬:後見人の活動に対する報酬(月額2万円〜)

特に後見人への報酬は継続的に発生するため、長期的な家計への影響を考慮する必要があります。厚生労働省の調査によると、後見人報酬の平均額は月額約2万8000円となっていますが、被後見人の財産規模や後見業務の複雑さによって大きく変動します。

後見人の種類による費用差

後見人には大きく分けて「親族後見人」と「専門職後見人」があり、選択によって費用が異なります:

親族後見人:家庭裁判所が報酬額を決定(無報酬〜月額2万円程度が一般的)
弁護士:月額2万円〜5万円(財産管理が複雑な場合は高額になることも)
司法書士・社会福祉士:月額2万円〜4万円程度
法人後見:月額1万5000円〜4万円程度

72歳の母親の後見人を務める佐藤さん(仮名・58歳)の例では、母親の預貯金が1,200万円、年金収入が月15万円の場合、弁護士後見人への報酬は月額3万円と決定されました。「予想より高額でしたが、複雑な不動産管理もあるため、専門家に依頼して安心感があります」と語ります。

成年後見制度の利用を検討する際は、本人の財産状況や後見業務の内容を踏まえ、適切な後見人のタイプと費用負担を見極めることが重要です。次のセクションでは、各後見人タイプのメリット・デメリットと選択基準について詳しく解説します。

成年後見制度とは?基本的な仕組みと必要性

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方を法律的に保護・支援する仕組みです。この制度は、本人の権利や財産を守りながら、安心して生活できる環境を整えることを目的としています。

成年後見制度の基本的な仕組み

成年後見制度には、大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。

法定後見制度は、すでに判断能力が不十分になった方のために家庭裁判所が後見人を選任する制度です。本人の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分かれています。例えば、重度の認知症で日常的な判断が困難な場合は「後見」、軽度から中等度の認知症で重要な財産管理に支援が必要な場合は「保佐」が適用されます。

任意後見制度は、判断能力があるうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ自分で後見人となる人を選び、サポート内容を契約で決めておく制度です。

成年後見制度が必要となるケース

厚生労働省の調査によると、成年後見制度の利用者は年々増加しており、2021年には約23万人に達しています。特に以下のようなケースで必要性が高まります:

– 認知症が進行し、財産管理や契約行為が困難になった場合
– 障害のある子どもの将来の生活を守るため親が高齢になった場合
– 独居高齢者で身寄りがなく、入院や施設入所の契約が必要な場合
– 悪質な詐欺や経済的虐待から守る必要がある場合

実際に、80代の母親が認知症となり、預金の引き出しや介護サービスの契約ができなくなったケースでは、娘が成年後見人となり、適切な介護サービスの契約や財産管理を行うことで、母親は自宅での生活を続けることができました。

成年後見制度は単なる財産管理だけでなく、本人の意思を尊重した生活を支援する重要な制度です。特に高齢化社会において、この制度の理解と適切な活用が、親世代と自分自身の将来の暮らしを守る鍵となります。

成年後見人の種類と選び方〜親族・専門職それぞれのメリット

親族後見人と専門職後見人の基本的な違い

成年後見人には大きく分けて「親族後見人」と「専門職後見人」があります。親族後見人は本人の家族や親戚が務めるもので、専門職後見人は弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家が担当します。どちらを選ぶかは本人の状況や家族関係、財産管理の複雑さなどによって判断する必要があります。

親族後見人のメリットとデメリット

親族後見人の最大のメリットは、本人の生活歴や価値観を理解している点です。また、報酬が不要または低額に抑えられることが多く、経済的負担が軽減されます。実際、家庭裁判所の統計によれば、親族後見人の約70%は報酬を請求していません。

一方で、専門知識の不足や、家族間の利害対立が生じるリスクがあります。また、後見業務の負担が大きく、仕事や私生活との両立が難しいケースもあります。

専門職後見人の選択基準

専門職後見人は次のような場合に適しています:

財産管理が複雑な場合:不動産や株式など多様な資産がある
親族間に争いがある場合:中立的な立場で判断できる
法的手続きが必要な場合:相続や訴訟など専門知識が求められる
虐待や搾取のリスクがある場合:第三者による客観的な監視が必要

専門職後見人の選定では、本人の状況に合わせた専門性を持つ人を選ぶことが重要です。例えば、不動産関連の問題が多い場合は司法書士や弁護士、福祉サービスの調整が必要な場合は社会福祉士が適しています。

なお、最近では「市民後見人」という選択肢も増えています。これは研修を受けた一般市民が後見人を務めるもので、専門職と親族の中間的な存在として、月額報酬が1〜3万円程度と比較的低コストなのが特徴です。2022年度の統計では、全国で約2,800人の市民後見人が活動しており、今後も増加傾向にあります。

成年後見制度にかかる費用の全体像〜申立費用から報酬まで

成年後見制度を利用する際には、様々な費用が発生します。申立時の初期費用から継続的にかかる後見人報酬まで、全体像を把握しておくことが重要です。ここでは、実際にかかる費用とその内訳を詳しく解説します。

申立時にかかる初期費用

成年後見制度の申立てには、以下の費用が必要となります:

収入印紙代:800円(家庭裁判所に納める申立手数料)
登記印紙代:2,600円(後見登記のための費用)
郵便切手代:約3,000〜5,000円(地域の家庭裁判所により異なる)
診断書取得費用:5,000〜10,000円(医療機関により異なる)
鑑定費用:5〜10万円(必要な場合のみ)

これらを合計すると、鑑定が不要な場合で約1〜2万円、鑑定が必要な場合は10万円以上の初期費用がかかることになります。

後見人への報酬

後見人に対する報酬は、家庭裁判所が本人の財産状況や後見事務の内容・難易度を考慮して決定します。一般的な目安は以下の通りです:

基本報酬:月額2万円〜3万円(財産規模や事務の複雑さにより変動)
付加報酬:特別な対応が必要な場合に加算

例えば、東京家庭裁判所の後見人等報酬算定基準では、預貯金等の財産額が1,000万円未満の場合、月額報酬は2万円が目安とされています。財産が多いほど、または認知症の症状が重く対応が難しいケースでは報酬額が高くなる傾向があります。

実際の費用事例

Aさん(75歳・預貯金2,000万円・要介護3)の場合:
– 申立費用:約15,000円(鑑定なし)
– 後見人報酬:月額28,000円(年間336,000円)

厚生労働省の調査によると、後見人報酬の平均額は月額約28,000円となっており、年間で約34万円の継続的な費用負担となります。この費用は原則として本人の財産から支払われますが、低所得者には成年後見制度利用支援事業による助成制度もあります。

費用面での負担を軽減するためには、市区町村の成年後見制度利用支援事業や法テラスの法律扶助制度の活用も検討すべきでしょう。特に財産が少ない方にとっては、これらの支援制度が大きな助けとなります。

後見人報酬の決まり方と相場〜財産規模別の費用目安

後見人報酬の決まり方と相場〜財産規模別の費用目安

成年後見人の報酬は、被後見人の財産状況や後見業務の内容によって大きく変わります。裁判所が「報酬付与審判」によって決定するため、一律の金額ではありませんが、一般的な相場を把握しておくことで、将来の経済的計画が立てやすくなります。

標準的な報酬額の目安

家庭裁判所が定める報酬の標準的な金額は、被後見人の財産規模によって以下のように変動します:

預貯金1,000万円以下:月額2万円前後
預貯金1,000万円〜3,000万円:月額3〜4万円程度
預貯金3,000万円〜5,000万円:月額4〜5万円程度
預貯金5,000万円以上:月額6万円以上

ただし、これはあくまで目安であり、実際には後見業務の難易度や負担の大きさによって調整されます。例えば、認知症の程度が重い場合や、不動産管理が複雑な場合などは、報酬が増額されることがあります。

報酬決定の考慮要素

裁判所は以下の要素を考慮して最終的な報酬額を決定します:

– 被後見人の資産状況(預貯金、不動産、株式等)
– 後見事務の内容と量(身上監護の必要性、財産管理の複雑さ)
– 被後見人の収入と支出のバランス
– 後見人の訪問頻度や対応時間

実際のケースでは、東京家庭裁判所の後見制度支援室の調査によると、専門職後見人の場合、平均月額報酬は約3.5万円となっています(2020年データ)。親族後見人の場合は、無報酬または低額(月額1〜2万円程度)となるケースが多いのが現状です。

報酬支払いが困難な場合の対応

被後見人の財産が少なく報酬の支払いが難しい場合は、成年後見制度利用支援事業を活用できることがあります。この制度は市区町村が実施しており、低所得者に対して後見人等の報酬を助成するものです。資産が1,000万円以下で、収入が一定基準を下回る場合に適用される自治体が多いため、事前に居住地の自治体に確認することをお勧めします。

成年後見制度の選択にあたっては、これらの費用負担を含めた総合的な判断が重要です。親の資産状況や介護の必要性を考慮しながら、最適な後見人のタイプと費用のバランスを検討しましょう。

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