高齢者の便秘対策と腸内環境の整え方
高齢者の便秘は放置せず早めの対策を
「最近、母が便秘で苦しんでいるんです。薬に頼らず自然な方法で改善してあげたいのですが…」
介護相談の現場でよく耳にするこのような悩み。高齢者の便秘は単なる不快感だけでなく、腸閉塞や腸炎などの深刻な合併症を引き起こすリスクがあります。厚生労働省の調査によれば、65歳以上の約4割が便秘症状を抱えており、特に要介護者ではその割合が6割近くに上昇します。

便秘は高齢者のQOL(生活の質)を著しく低下させる要因となるだけでなく、介護者の負担も増大させます。しかし適切な対策を講じることで、多くの場合は改善が可能です。
高齢者の便秘が増える3つの理由
高齢者に便秘が多い理由は主に以下の3点です:
1. 腸の蠕動運動の低下:加齢により腸の筋力が衰え、便を押し出す力が弱まります
2. 水分・食物繊維摂取量の減少:食事量の減少や嚥下機能の低下により、便を軟らかくする水分や食物繊維が不足しがちに
3. 運動量の減少:活動量が減ることで腸の動きも鈍くなります
佐藤さん(仮名・78歳)の例では、脱水を避けるために水分を控えていたことが便秘の主因でした。適切な水分摂取指導と腹部マッサージの導入により、2週間で排便状況が改善。下剤の使用も不要になりました。
まずチェック!便秘の重症度
便秘対策を始める前に、まずは状態を正確に把握しましょう:

– 3日以上排便がない
– 排便時に強いいきみや痛みがある
– 便が硬く、コロコロしている
– お腹が張って不快感がある
これらの症状が複数当てはまる場合は、すでに便秘が進行している可能性があります。特に1週間以上排便がない、激しい腹痛がある、血便が見られるといった症状がある場合は、すぐに医療機関への相談が必要です。
腸内環境の改善は一朝一夕には進みませんが、日々の小さな工夫の積み重ねが大きな変化をもたらします。次のセクションでは、具体的な食事改善と水分摂取の工夫について詳しくご紹介します。
便秘が高齢者の健康と生活の質に与える影響
高齢者の便秘は単なる不快感にとどまらず、全身の健康状態や日常生活の質に重大な影響を及ぼします。介護の現場では見過ごされがちですが、適切な対応が必要な健康課題です。
身体的影響 – 合併症のリスク
便秘が長期化すると、腹部膨満感や腹痛だけでなく、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。厚生労働省の調査によれば、75歳以上の高齢者の約4割が便秘に悩んでおり、その結果として以下のような問題が報告されています:
– 痔や肛門裂傷:強いいきみによる肛門部への負担増加
– 腸閉塞:重度の便秘による腸管の閉塞リスク
– 憩室炎:腸内圧上昇による腸壁の弱い部分の炎症
– 血圧上昇:排便時の過度な力みによる一時的な血圧上昇
特に注意すべきは、認知症のある方の場合、便秘による不快感を言葉で表現できないことがあり、その結果として不穏行動や興奮状態につながることがあります。実際、介護施設での調査では、便秘の改善により認知症の方の問題行動が30%減少したという報告もあります。
心理的影響 – 生活の質の低下

便秘は高齢者の心理面にも大きく影響します。東京都健康長寿医療センターの研究によると、慢性的な便秘を抱える高齢者は:
– 外出を控える傾向がある(突然のトイレ需要への不安)
– 食事を楽しめなくなる(消化不良や腹部膨満感への恐れ)
– 睡眠の質が低下する(腹部不快感による夜間覚醒)
– 自己効力感の低下(自分の体をコントロールできない感覚)
ある85歳の女性の事例では、便秘が原因で食欲が低下し、3ヶ月で体重が5kg減少。さらに活動量も減り、筋力低下から転倒リスクが高まるという悪循環に陥りました。適切な便秘対策を行うことで、再び外出を楽しめるようになり、生活の質が大きく改善したケースです。
便秘対策は単に排便を促すだけでなく、高齢者の全体的な健康と尊厳ある生活を支える重要な介護ポイントなのです。食物繊維の摂取や適切な水分補給、腹部マッサージなどの対策は、日々の介護に組み込むべき基本的なケアと言えるでしょう。
介護現場で実践できる効果的な便秘対策と水分摂取の工夫
介護現場での水分摂取の工夫
高齢者の便秘対策で最も重要なのが適切な水分摂取です。厚生労働省の調査によると、65歳以上の高齢者の約40%が1日の水分摂取量1000ml未満という報告があります。要介護者の場合はさらに少ない傾向にあるため、意識的な対応が必要です。
- 時間を決めて少量ずつ:一度に多量の水分を勧めるのではなく、起床時・食前・食間・おやつ時など、時間を決めて100ml程度ずつ提供します。
- 飲み物の種類を工夫:水だけでなく、温かい麦茶、白湯、薄めた果汁、ゼリー飲料など好みに合わせて変化をつけましょう。
- とろみ調整:嚥下機能が低下している方には、とろみ剤を適量使用し、誤嚥リスクを減らします。
日常的に取り入れられる腸活ケア
便秘対策は薬に頼るだけでなく、日常的なケアが効果的です。介護の現場で実践しやすい方法をご紹介します。
- 腹部マッサージ:腸の動きを促進する腹部マッサージは、朝の排便習慣をつける助けになります。時計回りに優しく5分程度行うことで、腸の蠕動運動を促します。
- 食物繊維の効果的な摂取:国立健康・栄養研究所によると、高齢者の食物繊維摂取量は推奨量の約70%程度にとどまっています。サツマイモやかぼちゃなどの根菜類、バナナ、りんごなど食べやすい形で提供しましょう。
- 適度な運動の促進:ベッドでの寝たきり状態が続くと腸の動きが鈍ります。可能な範囲で座位時間を増やしたり、ベッド上でできる簡単な運動を取り入れましょう。
便秘と薬の関係を理解する
要介護者が服用している薬の中には便秘を引き起こすものも少なくありません。特に、高血圧治療薬、パーキンソン病治療薬、精神安定剤などは便秘の副作用が報告されています。服薬内容を把握し、主治医や薬剤師と相談しながら対応策を考えることも重要です。便秘対策と薬の調整は専門家と連携して行うことで、より効果的な腸内環境の改善につながります。
食物繊維を効率よく摂取する食事プランと調理のコツ
食物繊維を手軽に増やす1日の食事プラン
介護中の親御さんの便秘対策には、食物繊維の十分な摂取が欠かせません。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」によると、高齢者の食物繊維目標量は1日あたり男性21g以上、女性18g以上とされていますが、実際の摂取量は平均で約14gと不足しがちです。

朝食には、オートミールに果物(キウイやバナナ)とナッツを加えた一品がおすすめです。オートミール50gで食物繊維が約4.5g摂取でき、準備も簡単なため介護の忙しい朝に最適です。
調理の工夫で食物繊維を効率よく摂取
野菜の皮や根元には食物繊維が豊富に含まれています。例えば、ごぼうの皮をむかずに調理すれば、むいた場合と比較して約1.5倍の食物繊維を摂取できます。また、大根の葉や人参の葉なども捨てずに炒め物や味噌汁の具として活用しましょう。
便秘がちな方には、以下の調理テクニックが効果的です:
– すりおろし調理:固い野菜をすりおろすと食べやすくなります
– 細かく刻む:咀嚼力が低下している方でも摂取しやすくなります
– 煮込み料理:長時間煮込むことで繊維が柔らかくなります
水分摂取との組み合わせが鍵
食物繊維の効果を最大化するには、十分な水分摂取が不可欠です。特に不溶性食物繊維は水分を吸収して膨らみ、便のかさを増やします。食事中や食間に200ml程度の水分を摂る習慣をつけましょう。
ある介護施設では、食物繊維が豊富な献立と水分摂取を組み合わせたプログラムを実施したところ、約70%の入居者の排便状況が改善したというデータもあります。
食物繊維と水分の摂取に加え、適度な腹部マッサージを行うことで、便秘対策の効果をさらに高められます。次の食事までに時間がある場合は、15分程度の軽い散歩を取り入れるのも効果的です。
腹部マッサージと運動による自然な排便促進テクニック

腸の動きを促進するマッサージと適切な運動は、高齢者の便秘対策として薬に頼らない自然な方法です。これらの技術を日常的に取り入れることで、腸内環境の改善と排便リズムの正常化が期待できます。
効果的な腹部マッサージの手順
腹部マッサージは腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)を促し、便の移動をサポートします。厚生労働省の調査によると、定期的な腹部マッサージを行った高齢者の約70%に排便状況の改善が見られたというデータがあります。
1. 準備: ベッドや布団の上で仰向けになり、膝を軽く立てリラックスした状態にします
2. 基本手順: 右下腹部から始め、時計回り(大腸の走行に沿って)にゆっくりと円を描くように優しく押します
3. 圧の強さ: 痛みを感じない程度の柔らかい圧で、1周あたり約30秒かけて行います
4. 回数: 1日2回(朝食後と就寝前)、5分程度行うのが効果的です
便秘解消に効果的な運動法
適度な運動は腸の働きを活性化させます。特に高齢者や介護が必要な方には、無理のない範囲で以下の運動がおすすめです。
– 腹筋運動の代替法: ベッド上で膝を曲げ、お腹に力を入れて5秒間保持し、緩めるを10回繰り返します
– 腰回し運動: イスに座った状態で、腰を左右にゆっくり回す運動を1分間行います
– 足上げ運動: 仰向けになり、片足ずつゆっくり持ち上げ下ろしを各10回行います
国立長寿医療研究センターの研究では、週3回以上の軽い運動を継続した高齢者グループは、運動習慣のないグループと比較して便秘の発生率が約40%低かったことが報告されています。
日常生活に取り入れるコツ
マッサージと運動を継続するためのポイントは、日課として定着させることです。例えば、朝の水分摂取後や食後のルーティンとして組み込むと習慣化しやすくなります。また、介護者と一緒に行うことで、コミュニケーションの時間としても活用できます。
便秘対策は一時的な対応ではなく、食物繊維の摂取、十分な水分補給、適切な運動、そして腹部マッサージを組み合わせた総合的なアプローチが重要です。これらを日常生活に無理なく取り入れることで、薬に頼らない自然な排便習慣を取り戻すことができるでしょう。
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