移動・移乗をサポートする用具:介護の負担を軽減する選び方と使い方
介護において移動・移乗の問題は、被介護者の自立と安全、そして介護者の身体的負担に直結する重要な課題です。厚生労働省の調査によれば、介護者の腰痛発症率は一般職種と比較して約4倍高く、その多くが不適切な移乗介助が原因とされています。適切な用具を選び、正しく活用することで、介護の質を高めながら介護者の負担を大幅に軽減できるのです。
移動・移乗用具の基本と種類
移動・移乗をサポートする用具は、大きく分けて「移動補助用具」と「移乗補助用具」の2種類があります。

移動補助用具:歩行器、杖、車いすなど、被介護者自身の移動をサポートするもの
移乗補助用具:スライディングボード、移乗ベルト、リフトなど、ある場所から別の場所への移動をサポートするもの
特に「移乗」は、ベッドから車いす、車いすからトイレなど、日常生活で頻繁に発生する動作です。東京都福祉保健局の資料によると、在宅介護者の約70%が移乗介助に困難を感じており、適切な用具の活用が強く推奨されています。
用具選びの3つの基本ポイント
1. 被介護者の身体状況に合わせる:麻痺の有無、筋力、認知機能など個別の状態を考慮
2. 介護者の体力や技術に適したものを選ぶ:使いこなせない複雑な用具は逆効果になることも
3. 使用環境との相性を確認:住宅の間取り、ドアの幅、段差など生活環境に適合するか
例えば、片麻痺のある父を介護している佐藤さん(54歳)は、スライディングボードの導入により、ベッドから車いすへの移乗時間が半分に短縮され、自身の腰痛も改善したと報告しています。このように、適切な移乗サポート用具の選択は、介護の質と継続性に大きく影響するのです。
介護における移動・移乗の基本知識と身体的負担
介護による身体的負担の実態
介護の中でも特に身体的負担が大きいのが移動・移乗介助です。厚生労働省の調査によると、介護職員の腰痛有訴率は約85%と非常に高く、その主な原因が不適切な移乗介助方法にあります。家庭内での介護においても同様の問題が発生しており、介護者の約7割が腰痛を経験しているというデータもあります。

移乗介助とは、ベッドから車いす、トイレへの移動など、場所から場所への移動をサポートすることです。この動作は介護者にとって最も負担が大きい作業の一つであり、適切な知識と用具の使用が不可欠です。
正しい移乗の基本原則
移乗サポートを行う際の基本原則は以下の通りです:
- 自立支援の原則:できる限り被介護者の残存能力を活かす
- ボディメカニクスの活用:介護者の重心を低く保ち、腰ではなく足の筋力を使う
- 適切な用具の使用:スライディングボードや移乗ベルトなどの補助具を活用
- 環境整備:移乗の妨げとなる障害物を事前に取り除く
特に注目すべきは、適切な用具の使用です。例えば、スライディングボードを使用することで、ベッドから車いすへの移乗時の摩擦を減らし、介護者の負担を約40%軽減できるというデータがあります。また、移乗ベルトを使用することで、被介護者の体を安全に支えながら移動させることが可能になります。
移乗介助による健康リスク
適切な知識や用具なしに移乗介助を続けると、介護者には以下のような健康リスクが生じます:
- 急性・慢性腰痛
- 椎間板ヘルニア
- 肩や膝の関節障害
- 筋肉の緊張と疲労の蓄積
これらの問題は、適切な移乗サポート用具の使用と正しい技術の習得によって大幅に軽減できます。介護の継続性を考えるなら、自分の体を守るための知識と用具への投資は必須と言えるでしょう。
安全で効率的な移乗をサポートする主要用具の種類と特徴
移乗をサポートする主要用具の種類と特徴
介護における移乗作業は、適切な用具を使用することで格段に安全性と効率性が向上します。ここでは、日常的に役立つ主要な移乗サポート用具をご紹介します。
スライディングボード
スライディングボードは、ベッドから車いすなど、同じ高さの場所への移乗に最適な用具です。表面が滑りやすい素材でできており、このボードの上を滑らせることで摩擦を減らし、少ない力で移乗が可能になります。

特徴と選び方のポイント:
・長さと幅:60〜80cm程度の長さがあれば、ベッドと車いすの間を安全に橋渡しできます
・耐荷重:一般的に100〜150kgまで対応していますが、必ず確認しましょう
・素材:プラスチック製や木製があり、消毒のしやすさも考慮して選びましょう
移乗ベルト(介助ベルト)
移乗ベルトは介護者が被介護者の体を支えるために腰や胸部に装着するベルトです。厚生労働省の調査によると、移乗ベルトの使用で介護者の腰痛リスクが約40%低減するというデータもあります。
使用上の注意点:
・ベルトの装着位置は被介護者の体格に合わせて調整する
・握りやすいハンドル付きのものを選ぶと力の入れ具体が安定する
・被介護者の残存能力を活かすため、過度に依存しないよう注意する
トランスファーボード
トランスファーボードはスライディングボードの一種で、特に車いすユーザーの自立を支援します。U字型やカーブ形状になっているため、自力での移乗がしやすい設計になっています。
選定ポイント:
・体格に合ったサイズ選び(小柄な方には小型のものが操作しやすい)
・表面の滑り具合(過度に滑りすぎると危険な場合も)
・持ち運びのしやすさ(折りたたみ式や軽量タイプもあります)
これらの移乗サポート用具は、正しい使用法を学ぶことで介護者の負担軽減と被介護者の安全確保に大きく貢献します。実際に購入する前に、ケアマネージャーや理学療法士などの専門家に相談し、個々の状況に最適な用具を選ぶことをお勧めします。
スライディングボードの選び方と正しい使用テクニック
スライディングボードの選び方

スライディングボードは、ベッドから車いすへの移乗など、水平移動をサポートする重要な用具です。介護する側の腰への負担を大幅に軽減できるため、正しい選択が重要です。選ぶ際のポイントは以下の通りです:
– サイズと形状:被介護者の体格や使用環境に合わせて選びましょう。標準的なものは長さ60〜75cm程度ですが、狭い場所での使用なら小型タイプも検討を。
– 素材と強度:耐荷重は必ず確認し、一般的には100kg以上のものを選びます。表面の滑りやすさも重要です。
– 持ち運びのしやすさ:収納や携帯を考慮し、軽量で薄いものが便利です。
実際に80代の母を介護している利用者からは「カーブ型のスライディングボードを選んだことで、ベッドと車いすの間の隙間を安全に橋渡しできるようになった」という声も寄せられています。
効果的な使用テクニック
スライディングボードを最大限に活用するためのテクニックをご紹介します:
1. 正しい設置位置:ボードの一端をお尻の下に、もう一端を移動先の座面に安定して置きます。角度は約30度が目安です。
2. 滑らせる動作:被介護者に「お尻を軽く浮かせて」と声かけし、体重を少しずつ移動させます。
3. 介助者のポジション:膝を曲げて腰を低くし、背筋を伸ばした姿勢を保ちます。
厚生労働省の調査によると、適切な移乗サポート用具の使用により、介護者の腰痛発生リスクが約40%低減するというデータがあります。特にスライディングボードは、正しく使用すれば力をほとんど使わずに移乗介助が可能です。
実践のコツとして、移乗ベルトと組み合わせると、より安全で確実な移乗介助が可能になります。スライディングボードで水平移動をサポートしながら、移乗ベルトで上半身を安定させる複合的なアプローチが効果的です。
移乗ベルトを活用した介助者の腰痛予防と被介護者の安全確保
移乗ベルトを活用した介助者の腰痛予防と被介護者の安全確保

介護者の腰痛は職業病とも言われるほど深刻な問題です。厚生労働省の調査によると、介護職の約70%が腰痛を経験しているというデータがあります。家庭内介護でも同様のリスクがあり、適切な移乗サポートツールの活用が重要です。
移乗ベルトの正しい使用方法
移乗ベルトは、被介護者の腰回りに装着し、介助者が持ち手をしっかりと握ることで、立ち上がりや移乗をサポートするツールです。使用時のポイントは以下の通りです:
– ベルトは被介護者の腰骨(腸骨)の上に固定する
– 介助者は膝を軽く曲げ、背筋を伸ばした姿勢を保つ
– 声かけをしながら、被介護者のペースに合わせて動作を行う
– 引き上げるのではなく、水平方向への移動を意識する
事例:Aさん(80歳)の場合
要介護2のAさんは、ベッドから車いすへの移乗に不安を感じていました。娘の佐藤さん(52歳)が移乗ベルトを導入したところ、「体を支える確かな感覚があり、転倒の恐怖が減った」とAさん。佐藤さん自身も「力の入れどころがわかり、腰への負担が明らかに減った」と実感しています。
腰痛予防のための追加対策
移乗ベルトの活用に加え、以下の点に注意することで腰痛リスクをさらに軽減できます:
– 日常的な腰部ストレッチの実施(朝晩5分程度)
– 介助前のウォーミングアップ
– 複数の移乗サポートツール(スライディングボードなど)の併用
– 無理な体勢での介助を避け、必要に応じて複数人で対応
理学療法士の鈴木先生によると「正しい移乗技術と適切な道具の活用で、介護者の腰痛発生率は約40%減少する」とのことです。移乗ベルトなどの移乗サポートツールは、単なる便利グッズではなく、介護の持続可能性を高める重要な投資と言えるでしょう。
介護は長期戦です。自分の体を守りながら、被介護者の安全と尊厳を確保する方法を身につけることが、質の高い介護を続けるための基本となります。適切な移乗サポートツールの選択と正しい活用が、介護者と被介護者双方の生活の質を向上させる鍵となるのです。
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