介護にかかる総費用の計算方法
親の介護を考えるとき、多くの方が「いったいいくらかかるのか」という不安を抱えます。介護費用は短期間で済むものではなく、長期にわたって継続的に発生するため、事前の把握と計画が欠かせません。ここでは、介護にかかる総費用を算出するための基本的な考え方と計算方法をご紹介します。
介護費用の基本構造を理解する
介護費用は大きく分けて次の4つから構成されています:

1. 介護保険サービスの自己負担分(原則1割、所得により2割または3割)
2. 保険適用外サービス費用(全額自己負担)
3. 生活費(食費、居住費など)
4. 医療費(通院、薬剤費など)
厚生労働省の調査によると、在宅介護の場合、要介護度によって月額7万円〜15万円程度、施設入所の場合は月額10万円〜25万円程度の費用がかかるとされています。
具体的な計算方法
介護費用の総額を計算するには、次の式が役立ちます:
総介護費用 = (月々の費用 × 介護期間)+ 初期費用
例えば、要介護3の親を特別養護老人ホームで3年間介護する場合:
– 月額費用:15万円(施設利用料10万円+日用品等5万円)
– 初期費用:入居一時金20万円
– 総費用:15万円 × 36ヶ月 + 20万円 = 560万円
見落としがちな費用項目
介護費用を計算する際、以下の項目を見落としがちです:

– 住環境整備費用:手すり設置、段差解消など(20〜100万円)
– 介護用品購入費:ベッド、車いすなど(10〜50万円)
– 緊急時対応費用:救急搬送、緊急入院など
– 介護者の機会費用:介護による収入減少や離職リスク
国民生活センターの調査では、介護による離職で平均450万円の収入減少があるというデータもあります。
介護費用の計算では、これら全ての要素を考慮し、要介護度の変化も想定して、余裕をもった資金計画を立てることが重要です。次のセクションでは、介護費用を節約するための具体的な方法について詳しく解説します。
介護費用の基本構造と自己負担の仕組みを理解する
介護保険の自己負担率と費用構造
介護費用の全体像を理解するには、まず介護保険制度における基本的な費用構造を知ることが重要です。介護サービスの費用は、原則として利用者の自己負担が1〜3割、残りを介護保険が負担する仕組みになっています。
自己負担率は所得に応じて次のように分かれます:
– 一般的な所得層:1割負担
– 一定以上の所得がある方:2割負担(年金収入+その他の合計所得金額が単身で280万円以上など)
– 高所得者:3割負担(年金収入+その他の合計所得金額が単身で340万円以上など)
佐藤さん(58歳)のケース:父親(85歳)の介護を始めたばかりの佐藤さんは、要介護3の父のデイサービス利用を検討しています。父の年金収入は月18万円。この場合、自己負担率は1割となり、月8回のデイサービス利用で約1万円の自己負担が発生します。
介護費用の内訳と月額上限
介護費用は大きく分けて次の項目から構成されます:
- 介護サービス費用:デイサービス、訪問介護、ショートステイなど
- 施設入所費用:特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホームの利用料
- 食費・居住費:施設での食事代や滞在費用
- 日常生活費:おむつ代や衣類など介護保険外の費用
- 医療費:通院や投薬にかかる費用
重要なのは、介護保険サービスの自己負担には「高額介護サービス費制度」による月額上限があることです。所得に応じて上限額が設定されており、一般的な所得層では月額44,400円が上限となります。

実際のデータによると、在宅介護の場合の月額自己負担は平均で5〜8万円、施設入所の場合は10〜25万円程度と言われています(厚生労働省「介護保険事業状況報告」参照)。
これらの基本構造を理解した上で、次に自分の状況に合わせた具体的な費用計算に進むことで、より現実的な介護の経済計画を立てることができます。介護費用は長期にわたって発生するため、正確な把握と計画的な準備が重要です。
介護サービス別の費用相場と計算例
介護サービス別の費用相場と計算例
介護サービスの種類によって費用は大きく異なります。主なサービス別の費用相場と実際の計算例を見ていきましょう。
訪問介護(ホームヘルプサービス)の費用
訪問介護の自己負担額は、要介護度と利用時間によって変わります。
サービス内容 | 要介護1〜2 | 要介護3〜5 |
---|---|---|
身体介護20分未満 | 約170円 | 約200円 |
身体介護30分以上1時間未満 | 約400円 | 約450円 |
生活援助20分以上45分未満 | 約185円 | 約220円 |
計算例:要介護3の親が、週3回の身体介護(30分)と週2回の生活援助(45分)を利用する場合
月額自己負担額 = (450円×12回) + (220円×8回) = 5,400円 + 1,760円 = 7,160円
デイサービス(通所介護)の費用
デイサービスは、滞在時間と要介護度によって料金が設定されています。
利用時間 | 要介護1 | 要介護3 | 要介護5 |
---|---|---|---|
7〜8時間 | 約750円 | 約1,050円 | 約1,350円 |
計算例:要介護1の親が週2回、7時間のデイサービスを利用する場合
月額自己負担額 = 750円×8回 = 6,000円
※入浴や食事代(約650円/回)を含めると、月額約11,200円になります。
ショートステイ(短期入所)の費用

ショートステイは宿泊を伴うため、滞在費・食費が別途かかります。
計算例:要介護3の親が月に5日間ショートステイを利用する場合
・基本サービス費:約1,000円/日×5日 = 5,000円
・滞在費:約1,500円/日×5日 = 7,500円
・食費:約1,500円/日×5日 = 7,500円
合計:20,000円(自己負担割合1割の場合)
これらの費用に加え、福祉用具レンタル(ベッド:約1,500円/月)や住宅改修(上限20万円の1割負担)など、必要に応じたサービスの費用も計算に入れる必要があります。介護費用の総額を把握するには、利用予定のサービスをリストアップし、ケアマネジャーと相談しながら具体的な計算を行うことをおすすめします。
施設入所と在宅介護の費用比較シミュレーション
施設入所と在宅介護の費用比較
介護方法を選択する際、費用面は重要な判断材料になります。ここでは、同じ要介護度の方が施設入所と在宅介護を選んだ場合の費用シミュレーションを見てみましょう。
要介護3の場合の月額費用比較例
【特別養護老人ホーム入所の場合】
・基本サービス費(1割負担):約25,000円
・食費:約45,000円(第3段階2の場合は約22,000円)
・居住費:約35,000円(第3段階2の場合は約15,000円)
・日常生活費(おむつ代等):約10,000円
合計:約115,000円/月(所得に応じた軽減制度利用で約72,000円/月)
【在宅介護の場合】
・訪問介護(週3回):約12,000円
・デイサービス(週2回):約16,000円
・福祉用具レンタル:約2,000円
・おむつ代:約15,000円
・食費:約45,000円(自宅での食事)
・光熱費等:約25,000円
合計:約115,000円/月
この比較からわかるように、単純な費用面では両者に大きな差がない場合があります。しかし、在宅介護では家族の介護負担や仕事との両立という「見えない費用」も考慮する必要があります。
長期的な費用変動要因
施設入所の場合、基本的に月額費用は安定していますが、在宅介護では要介護度の上昇に伴いサービス利用が増え、費用が上昇する傾向があります。

厚生労働省の調査によると、要介護度が1段階上がるごとに在宅サービスの利用額は平均で約20%増加します。例えば要介護3から要介護4になると、訪問介護やデイサービスの利用頻度が増え、月額費用が約23,000円増加するケースが一般的です。
費用計算の際は、現在の状態だけでなく、5年後、10年後の状態変化も想定した長期的な介護費用の試算が重要です。地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、ご家族の状況に合わせた詳細なシミュレーションを依頼することをお勧めします。
見落としがちな隠れコストと長期的な資金計画
見落としがちな隠れコスト
介護費用を計算する際、サービス利用料や施設費用だけでなく、「隠れコスト」の存在を忘れてはなりません。実際に介護を始めると、想定外の出費が積み重なることが少なくありません。国民生活センターの調査によれば、介護世帯の約65%が予想以上の出費に直面したと報告しています。
特に注意すべき隠れコストには以下のものがあります:
– 住環境整備費用:手すり設置、段差解消、浴室改修など(10万〜100万円程度)
– 医療費の増加:通院の交通費、処方薬の自己負担分
– 日用消耗品:おむつ、パッド、清拭剤など(月5,000〜20,000円)
– 介護者の収入減:勤務時間短縮や離職による収入減(年間100万円以上の場合も)
– 外食・宅配サービス費用:介護で調理時間が取れない場合(月2〜3万円増)
長期的な資金計画の立て方
介護は数年、場合によっては10年以上続くこともあります。厚生労働省の統計では、要介護状態の平均期間は約4.5年とされていますが、認知症の場合はさらに長期化する傾向があります。
長期的な資金計画を立てる際のポイント:
1. 最低5年分の資金を想定する(月々の費用×60ヶ月)
2. 年間3%程度の費用増加を見込む(介護保険改定や物価上昇を考慮)
3. 予備費として総額の20%程度を上乗せしておく
4. 親の資産と収入(年金など)を正確に把握する
5. 兄弟姉妹との費用分担について早めに話し合う
「介護費用の計算方法」を正確に把握し、隠れコストまで含めた総合的な資金計画を立てることで、経済的な不安を軽減できます。また、介護費用の自己負担を抑える各種控除制度や助成金も積極的に活用しましょう。家族全員が納得できる介護と、将来の生活設計の両立を目指した計画づくりが大切です。
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